三十代も後半に差し掛かり、僕は鏡に映る自分から目をそらすようになっていた。細く、力なく、ペタッと寝てしまう僕の髪。特に頭頂部は、照明の下ではっきりと地肌が透けて見え、その現実は僕の自信を容赦なく削り取っていった。毎朝、ドライヤーとワックスを駆使して、何とかボリュームを出そうと奮闘するも、昼過ぎには湿気と重力に負けて元通り。風の強い日には、外を歩くことさえ億劫だった。そんな僕を変えたのは、長年通っている美容師の、何気ない一言だった。「思い切って、パーマかけてみませんか?すごく楽になりますよ」。パーマ。その言葉に、僕は一瞬怯んだ。ただでさえ弱っている髪に、さらにダメージを与えるなんて。しかし、彼の「今のパーマは、昔と違ってダメージを抑えられるし、鈴木さんの髪質なら、絶対に格好良くなります」という自信に満ちた言葉に、僕は賭けてみることにした。施術中、僕は不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで目を閉じていた。そして、全ての工程が終わり、鏡の前に座った僕の目に映ったのは、信じられない光景だった。そこにいたのは、今までのもっさりとした自分ではない。トップの髪がふんわりと立ち上がり、毛先に自然な動きが生まれた、まるで別人のような僕がいた。気にしていた頭頂部の地肌は、カールの重なりによって、ほとんど見えなくなっていた。一番驚いたのは、翌朝だ。シャワーを浴びてタオルドライした後、ワックスを軽く揉み込むだけで、昨日のサロン帰りのスタイルが、いとも簡単に再現できたのだ。あれほど時間をかけても決まらなかったスタイリングが、たったの三分で終わる。それは僕にとって、革命的な出来事だった。髪型が決まると、自然と心も軽くなった。もう、人の視線を気にすることはない。パーマは、僕の髪にボリュームを与えてくれただけではない。失いかけていた自信と、前を向いて歩く勇気を与えてくれた、人生の転機そのものだったのだ。
僕がパーマで薄毛コンプレックスを乗り越えた話