長男を出産して、3ヶ月が経った頃。私の髪に、それは、突然、そして容赦なく、やってきました。シャワーを浴びるたびに、排水溝が、私の髪の毛で真っ黒になる。髪を乾かせば、洗面台の床が、抜け毛で埋め尽くされる。朝、目が覚めると、枕には、おびただしい数の髪の毛が、まるでアートのように、散らばっている。私は、毎日、鏡を見るのが、怖くなりました。生え際は、明らかに後退し、分け目は、くっきりと白い線を描いています。ただでさえ、初めての育児で、心も体も、疲れ果てていました。寝不足と、慣れない授乳、そして、社会から取り残されたような孤独感。そんな中で、日に日に、自分の女性としての自信を、失っていくような感覚。私は、完全に、産後うつの一歩手前でした。ある日、私は、涙ながらに、母に電話をしました。「もう、髪の毛が、全部なくなっちゃうかもしれない」。受話器の向こうで、私の嗚咽を聞いた母は、しばらく黙っていましたが、やがて、静かな、しかし力強い声で、こう言いました。「大丈夫。お母さんも、あなたを産んだ時、そうだったから。女の人は、みんな、そうやって、お母さんになるのよ。それは、あなたが、命がけで、あの子を産んだ、勲章みたいなものなのよ」。その言葉に、私は、ハッとしました。抜け毛は、恥ずかしいことでも、醜いことでもない。それは、私が、母親になった証なのだと。その日から、私の気持ちは、少しだけ、変わりました。抜け毛を、敵として憎むのではなく、出産という大仕事を、体が乗り越えようとしている、プロセスの一部として、受け入れてみよう、と。私は、食事に、海藻や大豆製品を、意識的に取り入れるようにしました。夫に、週末の数時間、息子を預け、一人で、ゆっくりと美容院にも行きました。美容師さんに、抜け毛が目立たない、手入れのしやすい、ショートカットにしてもらいました。髪を切った時、私の心も、少しだけ、軽くなったような気がしました。それから、半年ほどが経った頃。気づけば、排水溝の髪の毛は、いつの間にか、減っていました。そして、鏡の中の私の生え際には、短い、ツンツンとした、新しい髪が、たくさん、生えてきていたのです。
産後の抜け毛、私が乗り越えた日のこと